MEMORANDUM

  鴉

◆ 以下は、寺田寅彦のエッセーからの引用。

◇ しかし、また一方から考えると、元来多くの鳥は天性の音楽家であり、鴉でも実際かなりに色々の 「歌」 を唄うことが出来るばかりでなく、ロンドンの動物園にいたある大鴉などは人が寄って来ると “Who are you ?” と六(むつ)かしい声で咎めるので観客の人気者となったという話である。そんなことから考えると、鴉がすぐ耳元で歌っている歌に合わせて頸を曲げるぐらいは何でもないことかもしれない。
寺田寅彦 『鴉と唱歌』 (青空文庫

◆ 「フー・アー・ユー(オマエは何者だ)?」 と、誰何するこの鳥は、鴉。

◇ 最近の学生は漢字を知らないという。ある新聞社の入社試験に 「鴉」 にふりがなをつけさせる問題をだしたところ、答えが六十何通りかにわかれたそうだ。だが、そんなことに驚いてはいけない。カラスがからすだとわかり、烏によってあの黒い鳥をイメージできればそれで充分である。これを恰好の材料として、今日の学生の漢字の知識の欠落ぶりを嘆いたりするよりは、いったい、どんな種類の学生が 「鴉」 をカラスと読めたかを追跡調査することの方が、はるかに有意義ではないか。その調査の結果は目に見えている。学校で暗記を強いられたわけではない二つの人の名前に親しんできた者たちだけが、「鴉」 を正確に読みえたことは間違いない。その二つの人の名前とは、いうまでもなく長谷川伸と加藤泰である。ところで、ある大新聞社がその全集を刊行している前者はともかくとして、あなたは、加藤泰を知っているか。
蓮實重彦 『反=日本語論』 (筑摩書房,p.70; ちくま文庫)

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